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"いのちをまもれ", 油絵, 130cm x 97cm, 2015年
畑早苗は 1977 年に故郷の群馬を離れ、パリで独学の絵画研修を始めている。
18 歳でギャラリーデビュー、サロン入選を果たすが、より自由な境地を求めてニューヨークに居住。
有数のギャラリーとの契約を果たして帰国の折に佐賀町エキジビット・スペースで個展を開いた作
家である。 1980 年代の日本の、現代美術開花期のことであった。
「妄想中世」と名付けた今回の小品展は、身につけるオブジェを中心として構成されている。畑
が中世の匂いを嗅ぎつけた街々はパリ近郊に始まりヨーロッパとりわけ旧東欧圏にわたり、彼女の
模索と放浪の節々が小さな素材に宿って、そして今回のオブジェに現れているようだ。
中世に惹かれるのは何故かという問いへの畑の答えの一つは先人のイマジネーションであり、現
実とアルカディア(彼岸)の同居が自然にあると思うと述べている。表現力の強さをファン・エイ
クに、闘う力をジャンヌ・ダルクに学ぶというスケールの大きな観点が彼女の作品の通奏低音とな
っている。
(闘うという言葉を口にする畑は 2015 年の日本の政治状況の中で、国会周辺で出会う女たちへ
の眼差しに満ちている)。
アートを愛する人に、身につけてほしいとつくり続けてきた作品たちは今回の佐賀町アーカイブで
の展示を機に「パーソナルオブジェ」というネーミングのもとに発売される。
現在進行中の大作絵画の傍らで、ころころと生まれ出た小さなオブジェたちはクリスマスに向かう
季節に最もふさわしい装飾の魅力をたたえて用意された。一見すると、楽しく謎を誘う部品を駆使
した逸品の集大成。
新作 180 点 旧作合わせて 300 点に及ぶオブジェ。およびスピリットを象徴する油絵 11 点の展示
が圧倒的な空間をつくりあげている。
佐賀町アーカイブ 小池一子
■作家プロフィール
畑早苗[たかはた・ さなえ]
1959年前橋市生まれ。 17歳の時、坂口安吾の『堕落論』と岡本太郎の『今日の芸術』に衝撃を受け、目指し
てきた芸大受験の勉強を辞める。バイトをかけ持ち片道切符を買い高校卒業後パリへと飛び立つ。 18歳でパ
リのギャラリーでデビューしアーティストとして自活の道に入る。 1981年にニューヨークに移住しギャラリ
ーと専属契約。佐賀町エキジビット ・ スペースでは、襖絵を中心とした「幸福な場所」 1984年、マスクとト
ルソの「明日の顔を探して」 1986年(佐賀町bis) 、友人たちの肖像画を描き自画像とした「Intimate Reflections
1991 -1995 生まれ出た自画像たち」 1995年を発表。社会学者の 上野千鶴子さんとのコラボレーショ ン
『あ・な・た・た・ち−自我からの癒し−』絵: 畑早苗、文:上野千鶴子、あとがき:小池一子(NHK出版
1995年) が同時出版される。 1996年からユングの“個性化の過程”とも言えるような混沌の時間に突入する。
人生で初めてOLとして働きながらその混沌を描くことで生き延び、 10年後それらを「WEAR ME 転変無常」
と名付け、京都法然院・方丈2006年、日本美術技術博物館 mangghaクラコフ 2012年、香港2014年などで発表。
現在は、再会した友人たちの肖像画シリーズ「Intimate Reflections」を制作中。
■佐賀町アーカイ ブとは
1927年竣工のかつては廻米問屋市場として栄え、昭和の名建築となった「食糧ビル」の空間を再生。 1983年か
ら 2000年までの17年間、 小池一子が主宰し、 現在進行形のアートを発信した日本初のオルタナティブ・スペー
ス「佐賀町エキジビット・スペース」 。 森村泰昌、内藤礼、大竹伸朗、杉本博司ら 多数のアーティストを輩出
した。 2011年、 佐賀町エキジビット・スペースの活動と資料、作品コレクションを検証し、展示し、語り、学
ぶ、アーカイブをショーケース化する「佐賀町アーカイブ」 を開設。