東京物語シリーズ
1991年 YOKOHAMA
「国」というものを始めて意識したのは、シアトル市が運営する移民と亡命者のための英語クラスに通っていたときでした。シアトルに移住した直後、そこは私が唯一属せる場所でした。ベトナム人、カンボジア人、中国人………ほとんどのクラスメートは選択の余儀なくアメリカ人になってゆきました。それに引き換え、日本国籍を有する私には、十分過ぎるほどの選択の自由があることを思い知らされました。まるで、顔に付いた黒子のように、気がついたら当たり前のように付いていた日本国籍だったのに、自分の意志で国籍を選択できる立場にたたされ、私はまるで自分が日本人であることを初めて知らされた人のように慌てふためいたのです。それまで、意識もしたことがなかった自分の国、日本を自分の目できちんと確かめてみたい、そんな思いを発端にして、「昭和葬送曲シリーズ」と 「東京物語シリーズ」を描きました。「昭和葬送曲シリーズ」は昭和天皇崩御の日。「東京物語シリーズ」は1889年の暮れに日本に移住した後の印象を描いています。久しぶりに帰った日本はきらびやかに着飾った人々と、建築ラッシュ、まだ新しい家電や家具の粗大ゴミの山、湾岸戦争の勃発している中で、ここにいれば世界で何が起ころうと安全地帯にいるような不気味な笑いが漂っていました。中に汚いものを詰め込んだ、椅麗な薄皮に包まれた街、それが私の1989年−1991年東京の印象です。これらのシリーズは、過去に私が行ってきた仕事とは違い、テーマを「街」「国」「時代」というように、外の世界においています.自己の内面という海底のようなところから浮上してゆき、私の興味はそれを覆っている容器である「身体」へと発展し、今回のシリーズでは、身体を取り巻いている環境「街」「国」「時代」を一つの大きな単位の器として捉え表現しました。
< 高畑早苗 >

東京物語 1
1991 130x89.5cm (51" x 35") Oil on canvas

東京物語 2
1991 130x89.5cm (51" x 35") Oil on canvas

東京物語 3
1991 130x89.5cm (51" x 35") Oil on canvas

東京物語 4
1991 130x89.5cm (51" x 35") Oil on canvas

安全地帯
1991 130x 89.5 (51"x35") Oil on Canvas

あなたの昔の宝物たち
日吉, 横浜市
1991 117x 91 (46"x36") Oil on canvas

日用供給品
日吉, 横浜市, 神奈川
1991 117x91cm (46"x36") Oil on canvas

輝く、清潔で、簡単なスマイル
渋谷区, 東京都
1991 122x 81cm (48"x32") Oil on canvas

子供達の陸地
1991 130x89.5cm (51"x35") Oil on canvas

お家へ、スィートホームへ帰ろう
1991 130x89.5cm (51"x35") Oil on canvas

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